帝都は今年もイルミネーションに彩られている。 そう。今日は12月24日、クリスマスイブなのであった。 人々は大帝国劇場で行われるクリスマスのショウを心待ちにしていた。 その中で一人の男、 は特に目立つ存在でないものの帝劇の、特にカンナへのファン心は誰にも負けない程のものだった。 彼女の人柄の良さ、女性としての力強さ、そして優しさ――全てに の心は引かれていた。 (でも、 なんかがカンナさんに近づけるわけ無いし…遠くから応援出来るだけでも十分だ) もう日も落ちたこの時間、電灯の光のみを頼りに大帝国劇場の前に立った。 (こんな所にいたって、誰も出てくるわけじゃないか…帰ろ) そして、 は今日もまた大帝国劇場を背に家路に着いた。 次の日。 は再び、昨日と同じ日の落ちる時間、そして同じ場所に立ち、誰も出てくることのない大帝国劇場を見上げた。 そう、 はこの場所に日参していたのだった。 今 は町の役場で働いているのだが、それが終わった後毎日のようにこの場所に来ていた。 入口の大きな扉は開かれることも無く、部屋の明りだけを楽しむことが は大好きだった。 「あの…」 誰かから、声がかかる。 は「はい」と返事をして振り向くとそこには一人の女性がいた。 ポニーテールの可愛らしい……ン?…ポニー??? 「そんな所にいると、風邪引いちゃいますよ?」 な…なな、さくらさぁ〜〜ん!? は手をオーバーなくらいに広げて後退した。 「ど…どうしたんですか?あの、この劇場に御用でしたら、お昼に来るといいですよ」 「いやっ…用って程じゃないんですけど……」 は、非常に困った。 まさかあのさくらさんが、 に声を掛けてくれるなんて… ひょっとして、これは夢だろうか? は呆然としながら頬を力いっぱいつねってみた。 「イテッ!」 「…あの〜。これは夢ではありませんよ?」 彼女はほんのりと笑みを見せる。 「は…はい!そうですよね。うわ〜、本物なんですよね?あっ、申し遅れました。私の名は、 と申します。この通り冴えない男でして、ハハハ」 は、慌てふためいた為に変な自己紹介してしまった。 それでも、そんな をさくらさんは優しく見つめてくれた。 「私は、真宮寺さくら…って、知っていらっしゃいますよね? それであの〜、 さん。つかぬ事お聞きしますが…」 「はい!何でしょうか!? 何なりとご質問を承ります!!」 相変わらずめちゃくちゃな喋りにさくらさんはクスリと笑った。 「 さんは、ここで何をしていたのですか? …と言うのも、実は私達の内でアナタの事、ウワサになっていたのです。 だって、毎日ここでこうして立っていらっしゃるから皆、不審に思ってしまって… よろしければ訳を話してもらえませんか?」 「えっ!? ひょっとして 、ずっと不審者…だったんですか!?」 そんなに警戒されてたなんて思いもしなかった は、思わずさくらさんの肩をがっしりと掴んで迫っていた。 しかしそんな自分に一瞬で気がつき、勢いよくさくらさんから離れる。 「ス、スミマセン!! さくらさんになんて事を!!!!!」 は、力いっぱい頭を下げて謝った。 「アッ、そんな。頭を上げて下さい。私、気にしてませんから」 「本当に、スミマセン……」 は、とんでもないことをしてしまったと言う感覚に非常に戸惑いを覚えた。 「そんな…もういいですよ、 さん。それより話してもらえますか?」 はコクリと頷くと、さくらさんにもう一度近づき、そしてその辺りの帝劇の前に置いてあるベンチにさくらさんを座らせてから も座った。 そして、 は今までのことを話した。 ――帝国歌劇団が大好きなこと。 心からのファンであること。 そして、この大帝国劇場の前にいつも来ている訳。 さくらさんはジッと のことを見つめ、真剣に聞いていてくれた。 そして全てを話し終えた後も、さくらさんは優しい笑顔のまま。 「ありがとうございます。訳は解りました。 …それで1つ、ついでと言っては何ですが…… さんの一番のファンって…」 「あっ、ハハ。それはですネ、カンナさんなんです」 「そうなのですか。私としては、少し残念です」 さくらさんはホントに残念そうな顔をしてうつむいた。 は、なんて事をいってしまったのだろうと本気で思ったほど… しかし次の瞬間、バッと顔を上げると両手を軽く合わせて に笑みを見せる。 「そうだ、よろしければこちらに連れてきましょうか?」 「へっ?誰をです???」 は思わず、すっとんきょうな声を上げてしまった。 さくらさんはポンッと の肩を優しく叩くと、口元に手を当ててほんのり微笑む。 「もちろん、カンナさんですよ」 「エッ!そ、そんな、 なんかが!?」 そんなさくらさんの突然の言葉に、気がつけば は思いっきり首をぶんぶん振っていた。 ( がカンナさんに…そんな!! ただのしがないファンな と!!!) その時だった。 さくらさんと の背後――大帝国劇場の大きな扉がギギッと音を立てて開かれた。 かと思い気や、中からズドドッと音を立てて数人の人が倒れてきた。 『わぁぁぁ〜〜!!!』 そこにはなんと、帝国歌劇団の面々がいた。 「う〜〜〜〜…みんなぁ〜〜重いよぉ〜〜!!アイリス、潰れちゃうよぉ!」 と言う、アイリスからの声が漏れる。 それもそのはず、何とアイリスが一番下になった状態で歌劇団のメンバー、紅蘭、すみれ、カンナが山ずみになっていた。 「わぁ!スマネェ、アイリス!大丈夫か!?」 そう言いながら一番上にいたカンナは、他のメンバーよりもすぐに立ち上がり、いまだ立ち上がれないでいるすみれと紅蘭を担ぎ、そこから除けてアイリスを助けた。 「ぷはぁ〜〜!ありがとう、カンナ♪アイリス、しんじゃうかと思ったよぉ」 アイリスは半泣きになりながら、カンナにギュッと抱きつく。 「かんにんなぁ、アイリス。ウチがのろまなばかりに…」 そう言って紅蘭は、アイリスの頭をそっと撫でる。 「まったく…何でこのわたくしがカンナさんに摘まれなきゃいけないんですの!」 「ハイハイ、カメ女は放っておいて…」 「キィィーーーッ!! 誰が、カメなんですの」 「オメーだよ、すみれ」 カンナの言葉にすみれはくってかかろうとするが、今日はそんな事はモノともせずに逆にいる の方に振り向く。 そして、一歩また一歩と に近づいていった。 「あの、オメ〜〜よ、 っていったっけ?あ、あたいのファン…なんだって、な? スマねぇ、聞いちまって…」 どもりまくっているカンナからの言葉。 大きい身体ながらも、小さく見えてしまう彼女。 「…あっ、いえ。 …カンナさんに出会えて嬉しいです!」 戸惑いながら言う に対し、カンナさんは顔に満面の笑顔を作ると、 の頭をくしゃりと撫でる。 それもそのはず、カンナさんとの身長の差は、顔が一つ分位あるのだから。 もちろん、 の方が低いのだけど… 「本当、ありがとなぁ〜〜!! あたい、嬉しいぜ!!!」 その直後、 の目の前が暗くなった。 はカンナさんの胸の中に抱かれていたのだった。 「カ…カカ、カンナさん!?」 は、彼女の柔らかさ、暖かさ、そして優しさ…… 全てを身に受けて、全神経が硬直した感覚に襲われた。 それと同時に周りのことも気になったが、気がつけば他のメンバーはいなくなっているようだった。 そしてカンナはゆっくり から離れ、満面の笑みを見せると の手が彼女の暖かい手につながれた。 「行くぜ!今日は特別の日だ。あたいなんか、ちっぽけなもんだけどヨ。ファンだって言ってくれたんだ、あたいがオメェの奇跡の内の一つに入れさせてくれないかなぁ」 カンナさんは に背を向け、顔だけ少しこちらを向ける。 彼女から、照れの感情がつたわってくる。 「い、行くぜ。あんまりもやもやしてるのはしょうに合わねぇんだ」 そして は、了解したように首を縦に振るとカンナはいたずらっぽい笑みを見せると、それを合図に勢いよく走り出した。 ♪今日は、特別な日。愛が溢れそうな日。 きっと私に奇跡が起こります〜♪ そう。 にとっての大きな奇跡。 それは今日カンナさんに出会えたこと、そして帝劇の皆さんに出会えたこと。 これから一生かかっても、こんな事はもう起こらないかもしれない。 でも、いいんだ。 よぉし… 「 も、本領発揮するとするか!!!」 は、カンナさんと手をつないだままで力いっぱい走り出した。 そして、 はカンナさんの前に出る。 「うはぁ、 。早えぇなぁ、そうとなっちゃあたいも負けてらんねぇな、行くぜ!」 クリスマス色の帝都。 とカンナさんは、ひときわ目立ちながらも全力疾走でこの街を走り抜けていった。 |
アトガキ・・・ |
クリスマスが終ってしまっていけないのですが、いまさらながらカンナちゃんとあなたのドリー夢小説です。 |
02.12.27 |