---Crazy About You---
少し前から付き合い始めた、同じ年の彼女。 っていう名前なんだけど、みんなに自慢したくなるほど可愛い。 ほわほわしていて見ていて危なっかしい時もあるけど、それもまた魅かれる。 いつでも守ってあげたい、僕はそう思うんだ。 今日は遊勝塾に行く前に、公園デート中の僕たち。 「ねっねっ? 素良くん、私、また身長伸びたんだよ? 素良くん追い越しちゃったかも」 そう言うと僕の頭に手のひらを乗せて自分の背と比べようと横にたどる。 「う〜ん、どうかな。まだ少し僕のほうが高いよ」 「折角大きくなったと思ったのになぁ」 「え〜、ダメだよ」 告げつつ一段高くなっている縁石の上に立ち、そこからの身体を首の横から手を回してギュッと抱きしめる。 「そ…素良くん」 「いつかはこんな風にを抱きしめてあげたいから」 「……うん」 の身体は暖かい。 伝わってくる体温が、僕の煩悩を増幅させる。 少し離れると、彼女の顔を見下ろしてみる。 いつもと違う目線。上目遣いのまま潤んだ瞳、そして、ぷるんとした唇。 キスが、したい…… 僕は目を細めつつ、彼女の唇に自分の唇を重ねようとする。 だけど動揺しているのか、目を開けっぱなしの彼女。 少し引いて彼女を見つめる。 まだまだ慣れる事が難しい行為。 「目……閉じて?」 「う、うん」 彼女が力いっぱい目を瞑ると、僕は人差し指と中指で彼女の唇のラインをたどる。 柔らかい。 彼女はピクリと反応して、それと同時に硬直させていた顔面が緩んだ。 その柔らかな唇に、そっとゆっくり口付けをする。 彼女の気持ちを確かめる様に、長く長く重ね合わせる。 どれだけ時間がたったのだろう、顔を離すととトロンと蕩ける様な表情をしたの顔が、僕の目に焼き付いた。 「ひゅーひゅー、お兄ちゃんたちラブラブ〜〜」 いつの間にか、野次馬のちびっ子たちに囲まれている。 僕はそのちびっ子に向き、 「こら〜〜、君たち。僕たちは高いぞ〜」 両手こぶしを上げつつ子供たちを追いかける。 「わ〜、逃げろー」 散っていく子供たち。 「ったく。参っちゃうよ」 僕を見て、苦笑する彼女。 そして、手を差し出し 「じゃ、行こ? なんか他に余計な人も来てるみたいだし」 「えっ、余計な人って……?」 を引っ張って退散しようとした。 「……待て」 声を掛けられてしまった、よく知ったそいつに。 ひとつため息を付く。 「今、デート中なんだけど。邪魔しないでくれる?」 そこにいるのはよく知った人―黒咲隼がいた。 「ふ……たまたま通りかかっただけだ。それに、面白いものを見させてもらった」 口角を上げ、ニヤけ顔を見せる黒咲。 その言葉に、は立ちくらみを起しそうになっている。 それはそのはず。たった今、僕の知った人にキスを見られていた訳だから。 「、だったな。この前はすまなかったな、ありがとう」 その言葉に僕は、2人の顔を交互に見つつ驚いた。 「エッえっええええ!! 、黒咲知ってるの!?」 「うん。実はこの前、人探ししてたみたいで一緒に手伝ってたの」 「ああ、世話になった。無事に仲間に逢うことが出来た……それにしても」 黒咲はそう言いつつ、のほうへ振り向く。 「なぁに?」 「は、本当に魅力的だ。もう少し早く逢っていればな……」 「ほぇ?」 黒咲はそう言うと、の前に歩み寄るって……アアァッ! 「何、僕の前で気安くにナンパしようとしてるのっっ!?」 「ふん、オレはと話をしているのだ。……まあいい。じゃあ、またな」 踵を返し、指でサヨナラの合図を送り、彼は去って行った。 「もう、何だよ、アイツは〜〜」 「えっ、黒咲さんすごくいい人だよ? お仲間探したお礼にって、パフェ奢って貰っちゃたし」 がぁぁぁん……まさかの餌付け…… ショックで固まってした上、震えが止まらない。 「あ……、素良くん。……ごめんなさい」 察したのか、謝りを入れる。 でも、今は頭が混乱状態で、いつもの様な笑みを見せることが出来ない。 「……とりあえず行こう」 僕はの手だけをとり、その公園を去ろうと足を進める。 だけど、は動かない。 振り返ると、潤んだ瞳で僕を見つめる彼女。 「素良くん、黒咲さんにご馳走になった事はゴメンなさい……でもそれ以外は、何も無いから」 彼女は目に涙をためて、僕と握った手を両手で握り締める 「私が好きなのは素良くんだけなの!」 祈るように、僕を見つめる瞳。その眼差しに、心臓がドキリと強く跳ねる。 やっぱりと出会ってから、ボクは君に夢中になってしまっているみたいだ。 「……に言われちゃ適わないよ」 の頬をふんわりと片手で触れる。 「素良くん……許してくれるの?」 「許す? そうじゃない、気をつけて欲しいだけなんだ。言ったでしょ? は可愛すぎるんだ。誰かに連れて行かれるんじゃないかって、気が気でないんだよ。 いつでも守ってあげられればいいんだけど……」 花が咲き始めたかのように、次第に明るい笑顔に戻す。 「ありがとう。私、嬉しい!……けど」 僕は、神妙な返答に首を傾げる。 「けど?」 「本当は守ってもらうより、私は素良くんのことを守ってあげたいな」 自分の両胸前で両手共に拳を作り、真っ直ぐな瞳で僕を見つめる彼女。 「守るって……どうやって?」 苦笑しつつ、に尋ねてみた。本当、のこういう所可愛いなぁ。 「うぇ……えーーっと、こ、こうよ」 彼女はそう口走ると、僕の前に屈み込む。 「あ、ちょ、何!?」 「ほーら、コレでいつもと逆なんだから」 僕はに背中と膝裏に手を廻され、抱き上げられてしまった。 これじゃ……僕、男としてどうなの!? 「じゃあ、このまま遊勝塾に行くよ、素良くん」 「ちょっと待った!! コレかなり恥ずかしいんだけど。それに守るとは違うと思うんだけどーーーっ!」 「いいの。私がしたいんだから」 いくら言っても下ろして貰えなさそうだ。 「……ってホント、ブレないよね」 周りの視線を浴びながら小走りで塾に向かう。 塾に着いた僕たちは、当然ながら塾仲間全員に大爆笑された。 そしては着くと同時に、気力を失って倒れる。 当然だよね。 やっぱりしっかり守ってあげなきゃな―― と決意を新たに思う僕だった。 |