---Love Partner---

素良の連れてきたという名の彼女。
ほんわかしていて、守ってあげたい雰囲気がある。
……あと、コレ言ったら素良に怒られるだろうけど、本当に可愛い子だ。
だからと言って、友達の彼女って分別はちゃんと持ってるから、オレは大丈夫。

素良から紹介してもらったその後、俺達と同じ遊勝塾に通うことになった。
毎日の事だけどオレの後ろで素良とが楽しそうに喋っている。
はじめはちゃちゃを入れてやったりもしたけど、日に日に何だか虚しくなってきた。
あんまり気にしすぎると柚子からハリセンを食らってしまうので、授業に集中する。


授業が終わり、素良はオレの家、そしてオレの部屋にいる。
「なぁ…」
「何? 遊矢」
「お前、なんでいつも一緒についてくるんだよ」
「いいじゃん? 僕たち友達だし」
「あ……あの…お邪魔だったら、その……」
横からちゃんの声。そう、素良は時々彼女と一緒に俺の家へ来るのだ。
と言うか、素良が無理矢理連れてきている感じだった。
「い、いや違うんだ! ちゃんは全然いてもらっても構わないから」
その言葉に、素良は少しムーッとする。
彼女の元にいき、恥ずかしげも無くオレの前でギュッと抱きつく。
「遊矢、ボクの時と態度が全然違うんだけどぉ。はボクの彼女だからね、解ってる?」
「そんなの当たり前だろ!!!」
彼女は素良に抱きつかれて、ずっとオタオタしっぱなしだ。
オレはため息一つする。
「じゃ、ちょっと待ってて。確か何かおやつがあるはずだから」

オレは一人でキッチンへと向かう。
母さんは外に出ているので、キッチンは静かだ。
何かあるか冷蔵庫・冷凍庫を開けてみると、ちょうどカップのアイスクリームが余っていた。
それを数個持って、部屋に戻る。
「わぁ、遊矢ありがとう!!」
部屋に戻ると和やかにしているこのカップルには、背中が痒くなる様な思いだ。
「なんかゴメンね、遊矢くん」
「いや、いいんだ。気にしないで食べていって」
「うん、ありがとう」
ちゃんにニコリとそう返事をされて、心が和んでいくような感覚に包まれていく。
ちらりと素良に睨まれたけど、もう気にしない。


次の日。
塾の授業が終わり廊下からバルコニーに出て、伸びをしてフェンスを背にに凭れ掛かる。
風がとても気持ちいい。太陽も暖かだ。
息抜き完了と戻ろうとした時だった。
目の前のバルコニーと廊下を繋ぐ扉が開いた。ちゃんが来た、しかも一人で……
「わっ。ど、どうしたの?」
ビックリした。素良がいない不自然さもあって、いつも以上に動悸を感じる。
「うん、あのね? いつも素良くんと一緒におうちにお邪魔してしまっているし、これそのお詫びにっと言うかそのお礼です」
「そんな、気にしなくていいのに…」
ちゃんはフルフル首を振ると、オレをその純粋な瞳でじっと見つめる。
ふんわりとしたその眼差しが、オレに直撃する。儚く、弱弱しく、可愛い。
そして愛おしい……
動悸が、一層激しく高鳴る。
その健気で一直線な気迫にオレは完敗する。
「うん、解った。母さんにも伝えておくよ。わざわざありがとう」
お礼の品を受け取りつつ、お礼を言う。
「いいの、じゃあまたね」
彼女は手を振りつつ、バルコニーの扉に手を掛けた。

戻って行ってしまう、アイツの元に。

ドクドクと、さらに激しく鼓動が高鳴っていく。
「!!」

オレは、無意識に彼女の手首を掴んでしまった。
「ど、どうしたの? 遊矢くん」
彼女からの問い。
思わず握ってしまった。ドクドクと高鳴っている心臓はやむ事はない。

だけど……どうしよう。

「い…イヤ、何でもない。ごめん」
搾り出すように、その言葉を言ってしまった。
何かがオレを止めた。友の彼女と言う一線がきっとそれだ。
「? うん、じゃ。また明日ね」
「……うん、明日」
そう告げて、彼女はこのバルコニーを後にした。

残った俺は彼女の立っていたその場と、たった今握ってしまった手を広げてそれをじっと見つめてみた。
彼女から感じた温もり。柔らかさ。
それを感じるかのように、オレは彼女を掴んだその片手を頬に当てる。
ふんわりと、彼女の暖かさが残っている様な気がした。
そしてその手を、自分の口元に移動させると、その手にキスをしてみる。
彼女の香りが、残っているような気がした。

そしていつもオレを見つめる愛くるしい眼差し。
オレにだけ、向けていて欲しい……

気付いてはいけない事に気付いてしまった。

オレは……の事が、好きだ。とてつもなく大好きだ。




ガクリと膝を突き、放心する。
先ほどまで気持ちよく感じた風も太陽も、冷たく暗く感じた。
ゴーグルを目に深く掛ける。

「ハハッ…………


       オレ、バカだよな……」




---あとがき---            メニューに戻る