---My True Love---

学校と塾を休んでから1週間。
海で倒れたところを柚子が運んでくれたそうだ。
お礼、言わなきゃだな……

好きになってしまったの事は、ひと時も忘れる事が出来なかった。
ダメだ、ダメだと思っても、出てきてしまう本当の気持ち。

「遊矢、ご飯よ」
母さんが部屋に食事を持ってきてくれた。
「うん、ありがと。母さん……」
オレはベッドから起き上がり、俺の前に立つ母さんを見上げる。
母さんはオレのおでこと自分のおでこに手を当て、体温と調べる。
「う〜ん、熱は下がったみたいね。コレだったら、明日は学校行けるんじゃないかしら」
「…………」
「ほんっと、元気ないわね〜。病気の所為だけじゃなさそうね。……ま、私も遊矢くらいの頃はいろいろ悩んだもんだけどね」
母さんの話にオレは顔を向け、聞き入る。
「母さんも、そんな頃あったんだ……」
「もちろんよ」
オレにニコリと笑むと、頭を優しく撫でてくれた。
「そうそう、お友達が来てるわよ。遊矢の事、すごーく心配してたみたいよ〜〜」

 誰だろう、母さんのその言い方なら子供たち3人、タツヤとアユとフトシって所かな?

「いいわよー。いらっしゃい、ちゃん」
その名前に、ドキリと心臓が弾けた。
「ゆ……遊矢くん、こんにちは〜」
少し緊張気味に、扉の向こうからひょっこりと身体を出す。
「え……な、何で?」
その言葉の直後、母さんのゲンコツが頭を直撃する。
「イッたぁ、オレ病み上がり」
「コラ、折角お見舞いに来てくれたちゃんに失礼でしょ? それに、元気出たじゃない?」
「あ……」
ニコリと笑むと、母さんはに詫びを入れる。
「じゃ、ちゃん。コイツにしっかり渇を入れてやってね。元気になるみたいだから」
「か……母さん!!!」
含みのある笑いを残しつつ、オレの部屋を後にした。

今、この部屋で2人きり。
「あ、あの……」
オレはドギマギして、ちゃんとなかなか目が合わせられないし、言葉も出てこない。
「ね? 元気、出た?」
ちゃんからの言葉。
「あ、ああ。もう明日から学校いけそうだって」
「本当? よかったぁ」
ニコリと微笑む彼女。
「塾長から聞いて来たの。体調崩してるって聞いて、どうかなと思って」
「わざわざ、オレの為に。ありがとう」
「ううん、いいの。遊矢くんの顔を見れて安心した。素良くんも気にしてたし……」
オレは、素良という単語にドキリとした。
ちゃんの口からその言葉を聴くと、心が次第に曇っていく感覚に襲われる。
「ねぇ? ちゃん……」
「なぁに?」
彼女は小首を傾げて、何の疑いも無い眼差しで俺を見つめる。
オレは、彼女のその純粋な眼差しを濁らせようとしている。
でも、しっかり彼女の意思を確認しておきたい。自分の意思に決着を付けたかった。
オレは恐る恐る言葉を続ける。
ちゃんは、その、素良のこと好きで付き合っているんだよ、な……?」
「ふぇ? エッ? えっ?」
オレの突然の質問に、大困惑。パニックに陥っているのが解った。
「な……何で? 遊矢くん!?」
混乱している彼女に、オレは真剣に見つめる。
「オレの質問に答えて欲しい」
オレの表情に察してか、一呼吸置いて彼女は口を開く。
「うん……私、素良くんが…好き。……もしかして、遊矢くん」
オレはコクリと頷き、彼女をジッと見つめる。
そして彼女は言葉を続けた。
「遊矢くんも素良くんの事、好きなの?」

「……は?」

その質問にオレは、固まった。
彼女は何を言っているのだ???
「ちょっ…ちょっと待った、オレが素良を好き? なぁんでそうなるんだよぉ」
「えっ、ち…違うの?」
本気で本心で言っていたのか、困惑してどもっている彼女。
「違うに決まってるだろ。それにオレが好きなのは、ちゃん……アッ」
「……エッ…………」
思わず言ってしまった、勢い付き過ぎた。隠しておくつもりだったのに……
「……遊矢、くん?」
「…………ゴメン。オレ、ちゃんの事……好きになってしまったみたいだ」
彼女を見つめつつ告白する。
そんなオレを、彼女は目を見開きジッと見つめる。
「……なんで……?」
「なんで、だろうな? ちゃんを見てると、温かい気持ちになって、気がついたら……」
言葉を続けるごとに、声が震えてくる。
少しずつ溢れてくる涙をパジャマの袖でぬぐいつつ、彼女に告げる。
気持ちも昂って、落ち着かない。
拭い切れないほどの涙顔で、ちゃんを見つめる。
口元を軽く片手で押さえ、少したじろぐ彼女。
「ちょっとだけ……ゴメン、ちゃん…」
オレは、ベッドの隣に座るの首にキュッと抱きつく。
「ゆ……遊矢くん!?」
「今だけ、だからお願いっ!」
「…………うん」
オレは、止まる事の無い涙を流しながら彼女を抱きしめ続けた。
そんなオレの頭をそっと、ずっと撫で続けてくれた。






そして次の日―――
「レディス アンド ジェントルメェン!!」
オレは塾に入るなり、いつもの決まり言葉を叫びつつ元気にみんなに挨拶する。
「遊矢兄ちゃん、もう大丈夫なの?」
子供たち3人からわいわいと、心配され囲まれる。
「ああ、もう大丈夫だ。お前たち、心配かけたな」
「遊矢ってば、今日はずっとこの調子なのよ。心配して損しちゃった」
とずっと一緒に、行動をしてきた柚子。
そう言う柚子からは、安堵の様なため息を漏らすのが聞こえた。
そしてオレは先に席についていたちゃんを見つけ、そこまで足を進める。
素良から突き刺さる視線。ちゃんの前に立つと、隣にいる素良から、微かに椅子を引く音が聞こえる。
相当、警戒されているみたいだ。
ちゃん、心配かけたみたいだな。ありがとな!」
オレはちゃんに最高の笑みを見せ、頭を撫でてやる。
「ううん、遊矢くんが体調良くなったみたいで、本当に良かった」
そしてオレは続ける。
「それから、素良」
「何?」
何時までも、警戒を解くつもりは無いらしい。
「コラ、素良〜〜」
思い切って、グッと顔を腕で抱え込んでやる。
「うぐっ、苦しい。何するんだよ。遊矢ぁ!」
ちゃんの事、一人にさせちゃダメだぞ〜」
抱えつつ、頬をこぶしでぐりぐりしてやる。
「そ、そんなこと遊矢に言われなくても解ってるよぉ! 痛いって、遊矢ぁ」
素良は顔を真っ赤にさせて、声を上げる。
そして他の人に聞こえないように、素良にそっと耳打ちをしてやる。

「それからちゃんそーとー天然だから、気がついたら他の男に捕られてるなんてこと無いようにな」

「なっ……」
「ハハッ、頑張れよー。素良〜」
教室にはいつもの笑い声が戻り、そして響きわたる。
ある日の事だった。



---あとがき---            メニューに戻る