+++Love Cross+++

 今日も遊矢くんは塾に来なかった。
 ここ数日、塾には顔を見せていない。
 この前、お礼した時何か変だった……かな?
 心配だな……

? どうしたの、ぼーっとして」
横から素良くんが声をかけてきた。
只今塾の講義中。
塾長の熱ーい講義にもかかわらず、ぽっかり空いた遊矢くんの席がすごく気になって……
「……ううん、何でもないよ。ゴメンね、素良くん」
「……」
彼は、前に向き直り黙ったままコクリと一回頷く。

 遊矢くんのこと私以上に知ってる素良くんの方が、絶対心配してるのに……
 私、何やってるんだろ……

落ち着かない自分の気持ちを、戒めた。

 でも何か知っているのかな? 聞いてみようかな。

決意して、講義に集中する事にした。



そして、講義が終わり―
みんなに帰りの挨拶をする。
いつも通り素良くんと手を繋ぎつつ、楽しくおしゃべりをしながら帰路に就いた。
「あ、そういえば、最近遊矢くん来ないね? どうしたんだろうね?」
タイミングを見計らって、話を切り出してみる。
「……ボクも知らないんだ」
「そっか……」
一瞬にして空気がよどんだような気がした。
彼は俯いて、言葉を発しなくなった。
「素良くん?」
「……」
握っている片手に力を込められる。
「い、痛いよ。やめて」
急に上がった彼の握力にビックリして、引っこ抜いてしまった。
素良くんはハッとして、私の方を見る。
「あ、ごめん。
「どうしたの、素良くん?」
私を神妙に見つめつつ暫く黙っていたけど、
「ねぇ?……最近遊矢の事ばかり気にしてるよね。言わなくてもずっとバレバレだったけど」
予想外だった……
遊矢の事ばかり気にしている事が判ってしまっている上、かなりご立腹の様だ。
「ご、ごめんなさい。そんなんじゃっ」
なんかすごく誤解をされている様で、手振りで激しく違うと、顔の前をぶんぶんと横に往復させる。
は、誰の事が好きなの?」
その質問に私は固まった。そんなの決まってる。何でそんな質問をするのだろうか。
「それは…決まってるじゃない?」
「誰?」
彼は、真っ直ぐな瞳を私に向けつつ答えてくる。恥ずかしくて目が合わせられない。
真剣な表情でじーっと向けられている視線に耐えかねて、ゆっくり言葉を紡ぐ。
「もちろん……素良くん、だよ」
それを言い終わったと同時に、身体をギュッと抱きしめられた。
「やっと……言ってくれた」
「ほぇ?」
「ボク、ずっと待ってたんだよ。からの告白」

 あ、そういえば。ちゃんと言ってなかったか……

「ご、ゴメン」
「ううん、それよりもう一度聞きたいなぁ。からのコ・ク・ハ・ク」
「う……」
媚びる様な彼の目線が今ほど痛いとは感じた事が無かった。
もちろん良い意味でだけど。
恥ずかしさで、彼の顔が見られない。ずっと俯いた状態なんですが……
「ねぇねぇ、早くぅ!」
ちらりと横目で見てみると、急かすように潤んだ瞳で私を見つめている。
「わ、解ってる。え…っと……」
「うん、うん!」
しとやかさのかけらも無い、明るく突き抜けた空気の中で言いにくいやらで……
すると私の両頬から顎にかけて、彼の両手の支えによって持ち上げられる。
「ホラ、?」
一瞬にして空気が変わる。
私を見つめる真剣でいながら優しい瞳。つい今さっきとはまるで違う。
その彼の瞳に、引き込まれるかのように言葉が出てくる。
「……大好きです、素良くん」
自然に出た言葉だった。
彼は力強く優しい瞳で、私を見つめる。
素良くんの手によって支えられている顔はそのままに、ゆっくりと彼から口付けられる。
温かい彼の唇は、私の唇の温度と混ざり合ってさらに温かく感じる。
彼の手は顔から離れて、私の身体を強く抱きしめる。
ゆっくりと唇を離すと、さらに深く抱きしめられる。
すると耳元で、
「ボクも大好きなのは……だけだから」
小声で、囁かれる。耳にかかる息で、すごくくすぐったい。
まるで媚薬の様な彼の言葉で、心がキュンッと弾ける。
私は抱きしめられている素良くんの腕を緩め、顔が見える位置で彼をジッと見つめる。
熱い想いが溢れ出すかの様に、気持ちが昂っていく。
「好き…素良くん、大好き。堪らないの」
溢れ出した言葉は、恥ずかしさなんてものも忘れて留まる事が無かった。
箍が外れたように、心の奥からの気持ちが発せられる。
乞うように彼の胸に持たれかかり、溢れそうな涙を堪えつつ見つめる。
素良くんは驚いた様に目を見開き、私を見る。
するとすぐに優しい瞳に戻し、彼はおでこ・瞼・頬・鼻とリップ音を立てながらキスをした。
「ボク今、最高に幸せ!」
ニコリと私に微笑むと、最後にゆっくりと味わうように唇にキスをする。
すると唇の隙間からヌルリとした生暖かい感触が進入する。
「……ぅふっ…!」
突然進入してきたそれに驚き、唇の隙間から声が漏れる。
素良くんの甘ったるい香りがいつも以上に広がる。
歯の並び、舌の感触を味わう様に、そっとなぞられる。
さらに後頭部を押さえられると、彼の舌が奥まで進入し、私の舌を弄ぶかのように擦る。
驚いたけど、その彼からのモノを受け入れるように少し舌を動かしてみる。
だけど……彼からの執拗な大人のキスが強力過ぎて、

 ああ、もうダメ……

「……ッ!! !」
私は、腰を抜かしてしまった。
「ゴメンね……素良くん」
ああ、彼に申し訳ないやら恥ずかしいやらで……
素良くんはしゃがんで、私の顔を覗きこみつつ伺う。
「立てる?」
「ん〜、ちょっと無理…みたい」
素良くんはクスリッと小さく笑う。
「本当、可愛いなぁは。これだから放って置けないんだよ」
「な…そんなことっ」
彼は自分の人差し指を、私の唇に当てる。
「自分のこと、解って無いでしょ。は可愛すぎるんだよ? そこら中の男達に狙われているの、解ってるかなぁ」
「そんなわけ……第一、そんな経験一切ないし……」
「ボクだってその一人だったって事、忘れないよーに」
「えっ、えええーーー!」
ニヤつく彼。驚きで卒倒しそうになる。
そして彼はため息をついて、聞こえないくらいの小声で呟く。
「それに遊矢だって………………」
「え? 何? 最後、声小さすぎて聞こえなかったけど……」
悲哀を込めた瞳で私を見つめる。
「いい? 何かあるときは絶対ボクを呼んで欲しい。いいね?」
「うん、解ったわ。素良くん、ありがとう!」
彼に笑みを見せると、私のその唇に一つキスを落とした。

そしてなんとか立てる様になり、素良くんに助けてもらいつつ今日の所は帰路に就いた。