+++sweets dream+++
1日目 「ねぇ、それ美味しそうだね」 ある日外でお弁当を食べていると、突然声を掛けられた。 その声の主は、綺麗なアクアブルーのくせっ毛気味なポニーテールに青いジャケットを着た男の子。 多分私と同じくらいの歳の様だ。 誰ですか? あなた初対面ですよね。 食後のデザートに、シュークリームを食べようとしてたのに…… ジーっと見つめられて、食べにくいやら気恥ずかしいやらで… 「食べる?」 「えっ!? いいの!!」 コクンと頷いてあげると、ありがとーとお礼を言いつつ私の横にちょこんと座ってシュークリームを頬張り始めた。 まるで餌付けでもしているかの様だ。 あっという間に食べると、ニコリとこちらに微笑んでくれた。 「すっごく美味しかったよ。僕は素良、紫雲院素良って言うんだ。君は?」 「私は、」 「かぁ。うん、いい名前だね!」 「素良〜、おーーい!」 その時遠くに見える、緑と赤毛の方からお呼びがかかった様だ。 「うん!今行くよ、遊矢!!」 その遊矢というお友達に聞こえるように、少し大きめの声で返す。 「じゃあね、!またね」 「うん、またね」 そう告げて、タタタッと走り去って行った。 まるで嵐のようだった。 一瞬の事だったけれど、今日一番忘れられない出来事になった。 2日目 次の日、今日は学校内で友達とお弁当。 昨日は、外に用事があって一人で外弁当だったけれど、今日はいつも通り。 一人でちょっと寂しかったけど、あの無邪気そうな男の子のおかげでそれも全く感じなかった。 そして一日の授業が終わり、明日は休日。学校はお休み。 友達と別れると、一人で家路に着いていた。その時…… 「!」 「キャッ!」 突然後ろから呼びかけられて、私は吃驚してピョンと跳ね上がった。 「あははー、。ウサギみたいで可愛い♪」 誰かと思って振り返ってみると、そこには素良くんがいた。 「もう、素良くん。吃驚するじゃない!」 それに昨日出会ったばかりなんですけどーっと怒りたかったけれど、彼の笑顔を見るとそんな言葉も出てこなくなる。 「今日はどうしたの? 今、シュークリーム持って無いけど」 私はその言葉を告げると、彼は頬をプーッと膨らませる。 「ボク、シュークリームだけの男じゃないよ」 彼は、息が掛かりそうな距離まで迫って来る。 ち…… 近過ぎるよぉ〜〜! 「ねねっ、明日時間ある? 良かったらボクと一緒にスイーツ店巡りしない?」 私の手を両手で握り、懇願し始める。 繋がった手にドキリとして、思考がうまく回らない。 「えっ!? あ……、うーん特に用事も無いし良いけど……」 「やった! じゃ、明日朝10時に昨日会った場所で良い?」 「あ、うん。でも、何で……」 聞こうと思ったが、あっという間にその場から離れてこちらに向かって手を振っていた。 「じゃあ、また明日ね。!」 私は、呆然としつつ手を振り返すしかなかった。 またまた、その男の子の嵐のような行動に飲み込まれてしまったようだ。 ん? でもこれって、デートのお誘い?? 知り合ったばっかりなのに? 訳が解らないままOKしてしまったのだけど…… 明日聞けばいいかと自分に言い聞かせて、そのまま帰路に着いた。 3日目。 素良くんと待ち合わせた場所に座る。 最初の日、突然声を掛けられたこの場所。 まだ素良くんは来ていない。すると遠くから走ってくる彼の姿が見えた。 たどり着くと、息を切らして私の前に立つ。 「ごめ〜ん、。少し遅れちゃった」 両手を合わせて素直に謝る素良くん。 「別にいいよ。すごく遅かったわけじゃないし」 なんか根は良い子そう。 「ありがとう。じゃ、行こう!! 」 満面の笑みを私に向けて手を差し出してくれる。 って私、男の子とお付き合いしたことも無いから、手を繋ぐなんてちょっと照れくさいけど…… 差し出されてるなら、繋いでおいた方がいいのかな? 私は、素良くんから差し出されている手におずおずと自分の手を乗せる。 素良くんはヘヘッと笑みを見せ、進行方向を指差しする。 「あっちにスイーツのお店が並んでるんだ、行こう!」 私は素良くんに引っ張られつつ、彼の後ろを見つめる。 私って、彼の何でしょうか? 友達……かな? 彼女、じゃないし。うーん、でもまるで飼い主の様…… ピンッと引っ張られる手を見て、そう思った。シックリくる。 そう思った矢先、ふと彼が止まる。 「あ、ごめん。ボク嬉しくって……腕、痛くなかった?」 「ううん。大丈夫よ」 「そっか。じゃあ、ゆっくり行こう」 彼は私の腕を心配して、足を緩めてくれた。 前言撤回。お友達でいいよね? 多分…… 「ありがとう、素良くん」 私は彼に告げると、手を繋いだまま横に並んで歩いた。 とはいっても、ほぼ始めましての彼。 何を話せばいいんだろうか…… 困惑していると彼から振られる。 「ねぇ? って甘いもの好き?」 「うん、当然大好きよ。素良くんも……好きなんだよね? シュークリームあんなに美味しそうに食べてたし」 「もちろん甘いものだったら、なぁんでも好きだよ」 にんまりと無邪気な笑顔を見せつつ返答する。 「ボク達、好きなものが同じ同士気が合うのかもね♪」 そう言いつつ、私の前に立って両手をがっしりと握り締める。 ごく自然に手を繋げてくるので、彼との行動はすべて緊張自体なくなっていた。 「フフッ、そうかもしれないね」 互いに微笑みあった。自然でいられて暖かい、楽しい。 すると気がついたように、彼があちらを見る。 「あ、着いたよ、ココ」 「ここって……」 そこは、つい最近来た事がある場所だった。その時は女の子友達と来たんだっけ。 あの時、目の前で突然キャンディ持ったまま転んでいた子がいて、手を貸した覚えがある。 どんな子か忘れちゃったけど。 「ね? 、ココでの事覚えてる?」 「へ?」 突然素良くんから振られた質問に、呆け顔になる私。 「……そっか。ううん、なんでもない。楽しも! 」 素良くんは、少し強がり気味に笑顔を作っている。 なんか悪い事言ってしまったのかしら…… 素良くんと会ったこと……あったんだっけ? 彼のその言葉と態度が気になりながらも、スイーツ店巡りを楽しんだ。 そしてクリームたっぷりのアイスを手に、公園のベンチで一緒に並んで座った。 「とっても美味しいね。素良くん」 「そうだね、ボクなんて2段重ねにしちゃった」 私は少し息をつく。隣でアイスを美味しそうに舐めている素良くん。 私、彼に何かしちゃったのかなぁ…… 聞いちゃって、いいのかなぁ…… 目をギュッと瞑って意を決してみる。 良しっ! 聞いてみよう、このままじゃ素良くんに悪いし……この際、素直に―― 決意し目を開けようとした時だった。 頬に生暖かくて、くすぐったい感触。 感じた事も無い突然の感触に目を開けて見ると、素良くんの綺麗な瞳がそこにあった。 「どうしたの? 頬にアイスつけたままで」 「あ……あれ? 素良くん?」 彼は、ペロッと舌を出しつつ笑顔を向ける。 「フフッ、ご馳走様」 ん? ってことはつまり…… 一瞬思考が停止する。そしてパズルが組み合わさったかのように、思考が動き出す。 私は手で頬を押さえつつ、驚愕する。 「な…ななななななな」 「ナナナ?」 素良くんの返しに私はぶんぶんと頭を振り、横目で見つめる。 「……素良くん、舐めた?」 恐る恐る聞いてみた。 「うん、美味しいね。のアイスも♪」 ……キスもどきをしたってこと? それともやっぱり、私が飼い主なんだろうか…… 「あ、ホラ。そうしてる間に手にもアイスが」 素良くんが気がついて私の手元を指差しする。ぽたぽた垂れ始めているアイス。 彼はスッと私の手を支え上げると、何と手指を舐めようとするではないか。 「もったいないよ、のアイス」 「あああ、素良くん。ハイ!! これ残ってる分食べていいから! 手洗ってくる!!」 「え、いいの!?」 やっぱり私が飼い主でした。ドキドキした自分がおバカでした。 手を洗って、鏡で自分を見つめる。 顔面も残っているものが無いかよくチェックを入れて、素良くんの元へ戻った。 私のあげたアイスは、あっという間に食べてしまったようだ。 「あ、お帰り。アイス美味しかったよ、ありがとう!」 満面の笑みを私に見せる彼。 「ううん、いいの。それ所じゃなかったし」 プランプランと手を振り愛想を返す。 「それにしても、もう日が落ちてきちゃったね……」 名残惜しそうに、素良くんは俯く。 「そうだね、今日は楽しかったわ」 「ボクもと一緒にいられて、本当に楽しかった」 すると顔を崩し、急に改まった表情になる。 「今日は連れまわして、ゴメンね。ボク、に伝えたい事があって……」 するとゴソゴソとジャケットからキャンディを取り出す。 もう、本当に甘いもの好きなんだから。 でも……あれ? このデカキャンディ…見覚えが。 「この前、ココでキャンディ持ったまま転んでた子がいた。あれって……」 「それ、ボクだよ。あの時の事、お礼言いたくって」 「そう、だったんだ。ゴメン、顔を完全に忘れてしまってて……キャンディで思い出した」 その言葉に素良くんは、プーッとふくれっつらになる。 「ボクの本体はキャンディじゃないよ〜」 素良くんは、冗談半分の様に可愛げに追いかけてくる。 「きゃー」 私もそのノリに乗って、逃げてみる。 多分25mくらい走ったかな。 しかし結構全速力だった。後ろを見るとニコやかに追いかけてくる素良くん。 は……速い!!! 大木の下まで逃げると一息つく。すると次の瞬間、後ろから両腕をガシッと捕まえられる。 「ホラ、捕まえたよ〜。」 「もう、素良くんってば足速すぎ!! 容赦ないんだからぁ」 「ハハハ!! だって速かったよ」 全然余裕ですって顔を見せつつ、私の頭を撫でてくれた。 私は全く余裕無かったですよー! 息を整えつつ、振り返って素良くんを見つめる。 「じゃ、帰ろっか?」 「……待って」 素良くんから行動を止められる。さっきまでとは違う空気感。 「ボク、もう一つ伝えたい事が……あるんだ」 「何? 別の日にも逢ってたっけ」 素良くんは首を横に振りつつ、片手を伸ばし、私の顔の横につける。 大木を背に挟み撃ちされた状態。 すごく……すごくドキドキする。 私の顔を見つめると、意を決したように口を開く。 「ボク、この前に助けて貰った時からずっと気になってた。 堪らなくて、デュエルにも身が入らなくて、いてもたっていられなくて、の事ずっと追ってた」 「素良くん……」 「一昨日、たまたま一人でいる所を見つけて声を掛けたんだ…………」 「そう、だったんだ……」 素良くんは先ほどとは違い、声が微かに震えている。 真剣だ。 ほんのり火照った頬に、うっすらと涙を浮かべた瞳で私を見つめてくれる。 「の事、好きで大好きで堪らないんだ! ……ボクの彼女になって欲しい」 私はその言葉に戸惑いもした。だけど―― 「私、彼氏とかよく分からなくて……」 「……そう、だよね。ヘヘッ、突然ゴメンね。忘れちゃって……」 素良くんは私の横に付けていた手を自分に戻して後ろを向き、零れ落ちる涙を指で擦る。 そんな彼に私は後ろから、そっと寄り添った。 「だけど、そんな私で良ければ彼女にさせてください」 素良くんは、私に涙顔で振り向く。 「、ありがとう!」 すると素良くんは私を抱き寄せる。 暖かい体温が彼から伝わる。ふんわりと蕩ける様な甘い香りがする。 私も素良くんの背に少しだけ腕を回して、抱きしめてみた。 一瞬素良くんの身体が、軽くピクンと跳ねた様な気がした。 「ねぇ?」 「なぁに?」 抱いていた腕を解いて、面と向かい問われる。 「……キス、してもいいかな?」 「エッ……えっと…」 「、ダメ?」 素良くんは、小首を傾げつつ可愛らしげに問い詰めてくる。 ど…どうしよう…… キスなんて初めてだし、大事にしたいし…… 悩んでいるとそれを察したかのように。 「ボク…初めてなんだ。こんなに好きで…キス、したいって思ったの」 一緒だ……悩む事なんて、無いよね。 「うん、いい……」 全部言い終わる前に彼の唇によって、口をふさがれてしまった。 目の前には目をギュッと瞑った素良くん。 私もゆっくり目を瞑る。 素良くんからの息遣いを感じる。 触れている唇から感じる震え。私も緊張してどうしようもなくドキドキしているけど、この震えは素良くんからだ。 僅かに目を開けてみると、同時だったようで彼と細めのまま目が合った。 離れると、僅かな隙間を残した距離でクスリと笑う素良くん。彼の甘い吐息がかかってすごくクラクラする。 「……やっぱり、甘いや。は」 「もう……(本当に甘いのはアナタですよ……」 「好きだよ、」 私に告げると確認をするかのように、彼から再びキスをされる。 今度は少し長めに、もっと長めに…… ☆ ☆ ☆ と言うわけで、素良くんの彼女になって数日後…… 今日は、遊勝塾に来ている。 塾のみんなに紹介したいと素良くんから提案されて、一緒に来てしまったのだけど…… ポカーンとする塾長と生徒達の面々。 ま…まぁ、こうなるよね。 「ボクの彼女だよ。みんな宜しくね。遊矢、取っちゃダメだよ」 「と……取るわけないだろ! 宜しく、ちゃん」 そして皆さんが、それぞれ私に挨拶してくれた。 私も挨拶しなきゃ。 「ふ……不束モノでございますが、よろしくお願いします」 「それ、嫁入りする時に使う挨拶だと思うんだけど……」 遊矢から突込みが入る。 「もう考えてくれちゃってるんだぁ〜、嬉しいな♪」 「ち……違うの!! もう素良くん!!」 「ハハッ、こっこまでおいで。 」 私はポカスカ軽く叩く。そして無邪気な笑顔を私に向けつつ、逃げる素良くん。 『こんな所でジャレあわんでくれ』 一同の声が、今日一番重なり合った。 おしまい |