病室内の閉じられてるカーテンの隙間から、一筋の光が差し込む。 部屋の明るさに気が付いて、そっと目を開けて起き上がる素良。 寝惚けたまま、キョロキョロと病室内を確認する。 遊矢は……いない。 あれは夢だったのかと感じるほど、静かな室内。 はたと気が付いて、痛みがあった箇所を確かめてみる。 もう痛みは感じられない。 着衣している患者着を整えてからそっとベッドから下り、窓を明けて外の空気をたくさん吸い込む。 こんな美味しい空気を吸うのは、何故だかすごく久しぶりな気がする。 すると廊下から、ガヤガヤと賑やかな話し声が聞こえてきた。 部屋の前でシーッと合図を送る、塾長の声。 ノック音がするとそっと入り口の扉が開き、室内に入ってくる遊勝塾のみんな。 「あ、素良。起きてたんだ! もう大丈夫?」 「痺れるほど心配したぜ、素良」 「寝てなくて、もう平気?」 アユ、フトシ、タツヤが、それぞれ素良に向かって気遣い声をかける。 「うん、もう平気だよ。みんなありがとう」 少し屈んで3人と目線を合わせつつ、ニコリと笑みを見せる素良。 「素良、具合はどうだ?」 「あ、遊矢。この通りもう何とも無いよ」 横から掛かった遊矢の声に反応し、言葉を返す。 いつも通りの彼。 昨日の遊矢との行為はまるで夢だったかのような、そんな感じがした。 「ちょっと、起きてていいの? 倒れたって聞いてビックリしたわよ〜」 柚子からも、迫るように心配する言葉をかけられる。 「ハハッ、ボクの事。柚子から心配してもらえるなんて嬉しいなぁ」 「全く……お菓子ばっかりで栄養偏ってたんじゃないの? 今度ちゃんと管理してあげるから」 「はは…頼むよ、柚子」 そんな柚子を横から塾長が冷や汗を流しつつ、まぁまぁと宥める。 その時、ノック音と同時にガラリと入り口の扉が開いた。 赤馬社長だ。 「随分と具合が良さそうだな」 「うんお蔭様でね」 「医師からの伝言だが、今日念の為に検査を受けて、明日退院していいだろうとの事だ」 その言葉に、周りから喜びの声が上がる。 「それから……」 ちらりと素良と遊矢を交互に見て、ゴホリと軽く咳払いをする。 2人を人差し指で?き揚げるように合図をして呼び寄せると、赤馬社長は2人の顔を寄せそっと耳元で囁く。 (昨晩の監視映像は消去させてもらった、気を付けるんだな) 遊矢はギョッとして上部を見上げると、見えやすい位置に監視用のカメラが取り付けられていたのを発見する。 呆然とする素良と、ダラダラと汗を流しまくる遊矢。 「また後で来る」 踵を返し、含み笑いを残しつつ退室した。 社長が立ち去った後、会話が気になった子供たちからどうしたの?と質問攻めされる。 何でも無いと、慌てて取り繕う遊矢。 (夢じゃ、無かったんだ) 素良は安堵で心が満たされる。 ちらりと遊矢を見ると、涙目になっている彼と目が合う。 そしてクスリッと笑い合った。 二度と思い出せない記憶がどんなに悲劇的で、辛い出来事だったとしても今はもう大丈夫だと素良は確信した。 共に歩める人が居るのだから…… そして、後日の事―― 素良の検査結果を、聞きに来ることになった遊矢と塾長。 遊矢には何故突然彼の記憶が戻ってしまったのか、未だに謎だった。 「大丈夫だ。遊矢のお蔭で素良もあんなに笑顔になれたんだ」 塾長に慰められつつも、思い詰める。 「でも、あんなこと……相当辛いよな……」 その時、患者番号を呼ぶ声が院内の放送から聞こえた。 塾長に促されて、腕を捕まれつつ引き摺られる様に診察室に入った。 そして検査結果を聞き、記憶が戻った事を話す。 LDSの医師は首を傾げて返答する。 「紫雲院素良は、今も正常に記憶を抹消されておりますが?」 「え……エエェェェェェェェッッッッッッ!?」 「……お静かに願えますかね」 医師から伝えられた言葉により、遊矢は数週間石化状態が続いたのだった。 |
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