---Tragic Love---

オレは……素良の彼女――
ちゃんの事を好きになってしまった。

あれからオレは、自分自身の判別がつかなくなった気がする。
何時も通りでいられているのかも、わからない。
自分の中で何かが変わってしまって、どうする事も出来なくなってしまった。

素良には……
もちろんオレの気持ちがばれない様に、接しているつもりだ。
この所、ちゃんと一緒には来ていない。
オレ自身、少しだけホッとしている。
こんな事、素良にバレたら……

それなのに、俺の心の中の大半は……
いつでもちゃんと一緒にいたい気持ちに駆られている。


オレは塾が終わって早々に退散する。
一緒にいると、ちゃんを感じてしまって息が詰まる。


誰もいない、平日の海に向かう。
舞網の海、そして浜辺に到達すると、波打ち際まで走り、頭を拘束しているゴーグルを外す。
海水が足首まで浸かる程度の所まで進むと、足を止める。
神経が行き渡っていないかの様に、海の冷たさを微塵も感じられない。
胸から込み上げてくる行き場の無い悲憤する感情、そして目から無尽蔵に沸いて出てきてしまう涙。
ずっと我慢しっぱなしだったから。

オレは大きな叫び声を上げて泣いた。
心の奥からの嘆きを、一気に開放するかのように……

膝が力を無くしたかのように、ガクリと折れる。
下半身は完全に海に浸った状態だけど、気にする余裕も無い。



「遊矢……」
後ろから、か細い女性の声がした。
オレはその声の主の方に振り返ってみる。
涙で視界がぼやけて、よく見えない。
、ちゃん?」
ドキリとした。
急いで涙を袖でよく拭って、頭を振りつつもう一度見る。
そこには、ではなく柚子がいた。
で無くて残念と思う気持ちが心に広がっていく。
「遊矢、最近ずっと元気が無いね……」
「……」
オレは言葉が出ない。と言うより大声で泣いた分、声を発しようと思っても言葉にならずにいた。

の事?」
柚子から出たその彼女の名に、目を見開き柚子を見つめる。
オレはためらいつつ、ゆっくりと首を縦に振る。
俯いたまま再び海の方へ顔を向ける。
「やっぱり……」

柚子には、隠し事ができないなと本当に感じた。
幼馴染だからこそ、解り合えてしまう気持ち。
目をギュッと瞑る。バシャバシャと水を蹴る音が聞こえた。
すると後ろからそっと抱きしめられる感触。
「こんなになってまで彼女の事を……辛いよね、遊矢」
柚子自身もかがんで、オレを守るように抱き締めてくれる。
温かい。ちゃんもこんなに温かいのだろうか。
オレは振り返り、柚子を緩く抱き締める。
「ちょ、ちょっと。遊矢!?」
焦り声を出す柚子。
だけど、腕に力が入らない。
頭痛がする……

腕の力が抜けて、崩れ落ちた。
微かに柚子からオレを呼ぶ声が聞こえたような気がした。


そしてそこから、意識が途切れた。




---あとがき---            メニューに戻る