---ある日の午後---

「ばーくら君、一緒に帰ろ!」
-----それは、授業が終わり帰る支度をしていた時だった。
ボクの前に、飛びつくように突然現れた遊戯くん。いつもの事なのだが満面の笑みでボクに語りかけてくれる。
今日も遊戯くんはボクについていてくれた。
「うん」
ボクの答えは、それだけ。
遊戯くんといつも仲良しのメンバー---杏子さんと野坂さん、城之内くんに本田くん---にボクが加わり、いつも遊戯くんと先頭を歩いている。
「ねぇねぇ、明日のお祭りの事なんだけど、どうしようか?私、今年は新しく浴衣買ったんだ。みんなにお披露目してしんぜよう」
突然話題を振る杏子さん。
「杏子、浴衣買ったんか……それは気を付けないとなぁ」
ニヤリとしながら言う城之内くんに、すかさず言葉を入れる杏子さん。
「……何よ、それ!」
「いやぁ、杏子が浴衣とは…きっと、雨…いや、槍でも振ってくるんじゃねーか?」
城之内くんはいたずらっぽい笑みを浮かべながら言う。
案の定、杏子さんは手をワナワナと震わせながら城之内くんに向かっていく。
「城之内……そこまで言うんだったら、槍以上の物を振らせてあげましょうかぁぁぁ〜?待ちなさーい!!」
「待つわけねーだろ!」
杏子さんは、城之内くんを追い掛けて行く。それに対して、城之内くんは軽々とかわして行く。
いつもの、賑やかな光景。
ボクはその光景がとても不思議に思えてならない。
「ねぇ、獏良くんも街のお祭り行かない?きっと楽しいよ!」
「…ボク、お祭りとか行った事がないんだ」
その言葉に反応し、本田くんがすかさず言葉を入れる。
「お祭りは楽しいぞ!街の人達が集まって店を出したり、催し物があったり…」
「そうそう、今年は歌のコンテストがあるのよ!ミホ、絶対優勝するんだから!!!」
「あぁ、ミホちゃん。俺は、応援するぞ!ミホちゃんなら優勝間違いない。何しろこの美化委員、本田ヒロトがついているんだからな!!」
「キャァァ!ありがと、本田君大好き!!!」
二人のやり取りに苦笑いを返す遊戯くん。
「だから……ねっ!行こ、獏良くん?」
「…うん、ボクも行くよ」
ボクは、遊戯くんの誘いを断ろうとしなかった。むしろ、行きたい!そんな思いが、顔全体に表れていた。
気付いたら公園の前にみんな足を止めていた。
「じゃあ、明日この公園に5時集合な?遅れるなよ」
「城之内、そりゃお前だろ?俺は遅刻なぞしないぞ」
城之内くんと本田くんが言い合いになった。
「ハハハ!じゃあね、みんな」
遊戯くんは、みんなに挨拶をかわし、家の方へ向かって帰って行った。
「ボクも、ここで……」
ボクも、その後にみんなに挨拶をかわした。

前の方に、まだ遊戯くんの姿が見えるので、ボクは追いつこうと駆け寄った。
と、一瞬消えたかのように突然いなくなってしまった。
「どこに行ったのかな……遊戯くーん!!」
ボクは、不安になり思わず叫んでしまった。
「なーに?」
思いのほか、その返事はすぐに返って来た。
「あっ、獏良くん。どうしたの……?」
塀と塀の間からひょっこり顔だけ現す彼に、どのように言えばいいか、一瞬戸惑ってしまった。
「遊戯くんが、いなくなっちゃったと思って、心配になって…」
「えっ!?」
少し戸惑いながら言うボクに対して遊戯くんは唖然としている。
「それより、どうしたのこんな所で?」
遊戯くんは少し照れながら答える。
「うーん、誰にも教えないつもりだったんだけどなぁ…じゃあ獏良くんにだけ教えてあげるね。こっちに来て!」
遊戯くんは、細い路地を真直ぐ突き進み、茂みの中へと入って行く。すると暫くして、小さな小屋が目の前に現れた。
「ここだよ。こっちの方に来て!」
遊戯くんに引っ張られながら辿り着いた場所---薄暗く、普通は誰も入る事のない場所であるが、そこにはいろいろなゲームから過去のおもちゃまであった。それらのもの全部が、手入れの行き届いたものばかりで、これらこそが宝と言って相応しいものであった。
「これ、全部遊戯くんの?」
「うん、そうだよ。ボクの宝物。今日までの思い出がここにおいてあるんだ」
「いいなぁ…こんなにいい思い出ばかり…ボクにもそんな思い出…あったかなぁ……」
「じゃあ、ここに獏良くんの宝も置いて行かない?」
「…でもボク、何も持ってないから……」
「ううん…物じゃなくてもいいよ」
遊戯くんは、ボクの左手を小さな両手でしっかりと握りしめる。
「今日、ここにボクと来た思い出。それだけでいいよ」
ボクに優しく微笑んでくれる遊戯くん。
しかし、その瞬間彼は真剣な目付きに変える。
「でも…この場所の事は誰にも言っちゃだめだよ。特に城之内くん。きっと『俺も連れてけー』とか言うに決まってるから…」
そのような事を言う彼にくんは一瞬あっけに取られてしまったが、すぐに平静に戻る。
「うん、わかった。ボク達だけの秘密だね」
ボクは微笑むと、遊戯くんは少し照れたように俯いた。
「じゃ、帰ろうか。ボクのじいちゃん、すぐ心配するから…」
「そうだね」
そして、元来た道を戻って行き、遊戯くんと別れを告げるとそれぞれの家へ帰って行った。

---進む---