次の日-----
ボクは、ベットからゆっくりと起きて窓を開ける。ひとすじの風が、さっと部屋の中を駆け巡る。
天気は快晴。絶好の祭り日和だ。
ふと時計の方を見る。今は、まだ7時。
学校が休みでも、起きる時間は変わらない。
ボクは、いつものように朝食を用意する。こんがりと焼いたパンに、特製の紅茶。
この所、この組み合わせが朝食に多い。
食事につこうと椅子に座る所だった。
ピンポーン……
誰かが来たようだ。
「ばーくらくん!」
聞き覚えのある声がする。
「はい」
ボクはそっと扉を開ける。
そこから現れた特徴ある髪型の男の子---遊戯くんがいた。
「エヘヘ…来ちゃった!」
いたずらっぽい笑みを浮かべる彼は、いつもと雰囲気が違う。
今日は、浴衣を着ていた。普段制服姿しか見ていないせいか、その姿がとても新鮮に見えた。
「どうしたの、こんな朝早くに…祭りはまだなんだよね?」
「うん、まだなんだけど、獏良くんとお祭りに行けるかと思ったらなんだか嬉しくって!」
にっこりと微笑みながら言う彼に対してボクは呆然としてしまった。
「あ…ありがとう、まだ朝食食べてた所なんだけど、良かったら上がってよ!」
「本当!?わぁ、お邪魔しまーす」
喜んでボクの家に入る遊戯くん。
彼にもボクの作った紅茶を入れてあげた。
「いっただっきまーす………わぁー、おいしー!獏良くん、紅茶作るのすっごく上手だね。これ大好き!!」
「良かった、遊戯くんの口にあうか心配だったんだ」
「うん、すっごく美味しい!これ、どうやって作ったの?」
「簡単だよ、やってみる?」
「うん」
ボクは、彼に紅茶を作る事で基本的な事から教えた。
まずは、カップにお湯を注ぐ所から、出来上がりまで、そして最後にジャムを入れて特製のロシアンティーの出来上がり。
「わぁ、こんな事まで出来ちゃうんんだ。獏良くんすごいね!」
「そうかな…それより、今日は遊戯くん浴衣なんだね」
「へへ…やっぱりお祭りには浴衣を着たいからね。獏良くんは着ないの?」
「あるけど…でも、ボク…」
「えっ、あるの?ねぇ、どれどれ?見たい!」
彼はボクの言葉を遮って、乗り出してくる。
「えっと、じゃあ、見せるだけだよ?」
「うん!」
ボクは押し入れの奥にしまってあった浴衣を引っ張りだし、遊戯くんに見せた。
「わぁ、これ獏良くんにぴったりだよ!ねぇ、着ないの?」
期待の眼差しをボクに向ける、遊戯くん。
「ボク…浴衣着るのはやめてるんだ…あんまりいい思い出がないから……」
「じゃあ、ボクが獏良くんの思い出の1人目になれないかなぁ、だから…ねっ!」
にっこり微笑んでくれる遊戯くんに対し、ボクは少しためらうがその眼差しから逃れる事ができなく、首を縦に振る。
「うん、じゃあ、着てみるよ。ちょっと待ってて」
ボクは隣の部屋で着替えてみる。しばらく着てなかった浴衣、しかしこれがうまく着こなすのは難しかった。
「獏良くーん、もう着たぁ?」
「まっ…まだだよ、ちょっと待って」
-----そして、数分が経ち…
(き…着れない…)
帯を持ったままボクは硬直してしまった。
そこへ遊戯くんが、ちらっと様子を見に来た。
「ねぇ…まだぁ…ってどうしたの?」
彼のその一言でハッと我に還るボク。
「実は…これ、1人じゃ着れないみたいなんだ…」
ボクは少し照れ笑いをする。
困っているボクに遊戯くんは得意げに言い放つ。
「何だ、それならボク手伝ってあげるよ。毎年じいちゃんに着せてもらってたからだいたい覚えてるんだ。その帯貸して!」
「うん」
言われるがままにボクは遊戯くんに帯を渡す。
浴衣の前を閉め、紐で結び、徐々に着付けていく。
「えっと、ここがこうなって…」
「ねぇ、何か手伝うよ?」
「あー、動かないでじっとしてて!」
ボクは心配で声をかけてみたが、逆に怒られてしまった。
遊戯くんの言われるままにしかならないボクは、ただ着せられるのを待っているだけ。時々、帯を前の方に回すのに手伝う事もあるがそれだけだった。
-----そして、しばらくたって……
「やったー!出来た出来た!!ボク、人に着せるの、初めてだったけどうまくいったよ」
とても嬉しそうな遊戯くん。言う通り良く出来ている。…だけど、ただ一つ。
「ありがとう、遊戯くん……でも、これ縦結びになってるよ?」
「えっ……あー、本当だ!すぐ直すね」
彼は慌ててボクの帯を直そうとする。
「あっ、いいよ。ここまで出来たら、ボクにも出来るから」
ボクは帯を結び直す。遊戯くんはそれを見て、とても満足そうだった。
「うん、獏良くんよく似合うよ!…そうだ、せっかく浴衣着たんだし外に行こうよ。まだ転校して来たばかりだから、この街の事あんまり知らないでしょ?」
「うん、いつも使う道以外はほとんど…」
「じゃあ、ボクが案内するよ、行こう!」
「あっ、待って。まだ、朝食途中だったんだ」
ボクは残りのパンを食べ、紅茶を飲み、食器を片付けると遊戯くんに急かされる様に腕を引っ張られて、外に連れ出された。
遊戯くんは、街の中でいつも行った事がないゲームセンターやちょっとした隠れ家を中心にいろいろの店を案内してくれた。
案内されるそれぞれの場所が、いかにも遊戯くんらしい場所ばかりで、ボクは微笑まずにはいられなかった。
「……どうしたの?何か、すっごく嬉しそうだね」
「そうかな…でも、遊戯くんって本当にゲームの事だったら何でも知ってるんだね」
「うん!ボク、いろいろなゲーセンでゲームを制覇しようと思ってるんだ」
彼は満面の笑顔で答える。
「じゃあ、今度対戦しようか?そのゲームで」
「そうだね。でも、今日は別の所、行こ!今度は、こっちだよ」
向かって行く方向---お祭りが行われる場所だ。でも、時刻はまだお昼になったばかり。お祭りは夕方からだからまだやっているはずはない。
ボクは彼に腕を引っ張られながら、聞いてみた。
「ねぇ、遊戯くん。お祭りって夕方からだったよねぇ?」
「うん、そうだよ。でも、屋台の方は、もうやってる所もあるんだ。お腹も空いて来たし、何か食べに行こ!」
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